山脈状に連なる高山のことを称して「アルプス」と呼ぶことがある。日本アルプスはその代表的なものだが、韓国にもアルプスと呼ばれる山脈が釜山の近くにあることはあまり知られていない。
韓国の最高峰はよく知られている通り、済州島にあるハルラサンで標高1,950メートル、本土の最高峰がチリサンで標高1,915メートルだ。今回の目的地「ヨンナムアルプス(영남알프스)」は標高1,200メートル前後の山が連なる。標高だけを聞くと気を緩めてしまうかもしれないが、その雄大な景色はまさにアルプスと呼ばれるにふさわしい。
梅雨の真っ只中、雨の日に韓国へやってきた。金海国際空港のターミナルを出るとジメジメとしている。小雨の天気だ。こんな天気だからすぐに予約している民宿(ペンション)へ直行すればいいのだけど、少し気が進まない。山の麓だから渓谷なんかはあるだろうが、この天候では観光もできない。外に出ることもできず部屋にこもるくらいなら、ゆっくり宿に向かおうと思う。
空港からすぐ近くの釜山西部バスターミナルからの出発は回避し、地下鉄でソミョン(西面)まで向かう。まずは何といっても食事だ。ダイナミックな食事が一番韓国を感じることができる。地下街から上がってすぐ、飲食店が立ち並ぶロッテデパートの裏にある焼き肉屋に入りサムギョプサル(豚の三枚肉)を注文した。
味はまずまず。だけど最近の韓国(都会)では珍しいほどスタッフが無愛想だ。笑顔までは要求しないが、外国人と分かったからか言葉を一切発しない。こんなところで久しぶりに韓国を味わうとは思わなかった。
気を取り直して、釜山駅から列車、市内バス、市外バスを乗り継いで目的の「オルムゴル(얼음골)」までやって来た。
この地域は夏の避暑地として人気らしい。バス停の名前にもなっている「オルムゴル」は天然記念物に指定されている谷で6月中旬から9月まで岩間に氷が生じ気温も低い。また、ホバクと呼ばれる沼や滝など川遊びが楽しめる。宿の主人からは川遊びやバーベキューを勧められたから、韓国人にとっては夏のアクティビティとしてキャンプにも訪れるのだろう。
朝、まだ薄暗い窓の向こうからザーっという大きな音が聞こえる。慌てて窓を開けると、雨は降っていない。天気予報通り曇りのようだ。そして音の主は、隣に流れる渓谷。昨日の雨がすごい勢いで流れ出ているらしい。この水量を見ると、山の豊かさが分かる。
手軽な登山を好む筆者だから、この山を選んだ理由がもう一つある。それはケーブルカーがあるということ。ケーブルカーを設置するということは人気の山であるに違いない。そして、海抜1,020メートルまでケーブルカーで行くことができるから、低山気分のお手軽山旅ができる。
夏季はケーブルカーは8時30分から運行される。始発の便に乗るために8時前に宿を出た。8時過ぎ、すでにチケット売り場は開いている。往復チケットを購入して、2階へ上がった。2階はコンビニとカフェが併設してある。カフェのメニューをザっと見るとドリンクのみ。残念ながらモーニングになるものはない。コンビニでカップラーメン、カフェでアイスコーヒーを購入して朝食にすることにした。
8時30分近くになりアナウンスが流れた。搭乗時間だ。ケーブルカーの定員は50人だけど、朝一番の便に乗り込んだのは15名くらい。全員が登山スタイルだ。
韓国人の朝は遅い。それは登山であっても変わらない(と私は感じている)。日本なら始発便であってもケーブルカーは満員になるだろう。登山の早朝出発、早めの帰路は基本だからだ。とはいえ、少なめの人数はゆっくりと乗車できていい。ケーブルカーの中ではこの地域の名所やヨンナムアルプスなどの紹介アナウンスが流れ、山脈や下を流れる渓谷などを見下ろしながら10分ほどで到着した。
ケーブルカー乗り場(上)の展望台からは登山道の入口があり、整備された木道が設置されている。いかにも韓国らしい。また、この木道を10分ほど楽しむと到着する展望台がある。観光としてケーブルカーを訪れる人々は普段着で気軽に展望台まで散策に訪れるらしい。(写真は登山帰り。軽装の人々がたくさん訪れていた)
展望台の景色を一望したあとは、すぐに登山道に戻る。ここからが本格的な山旅だ。
昨日の雨のせいで道は少しぬかるんでいる。そのかわり、空気は澄んで草花の色合いは鮮やかだ。
そして、勾配があまりなく緩やかな登りなので無理することなく前に進むことができる。ケーブルカー乗り場から1時間ほどで四方を見渡すことができる尾根歩きになり、日差しを浴びながら眺めるヨンナムアルプスの山並みに目を奪われた。
ヨンナムアルプスのチョンファンサン(천황산:標高1,189メートル)までは片道1時間15分ほどの山旅だ。百名山のチェヤクサン(재약산:標高1,119メートル)へはここから約1時間。チェヤクサンまで行く計画だったが、予定していた時間より片道40分ほどオーバーしてしまう。ランチはケーブルカー乗り場で食べる予定にしていたから軽食を持って来なかった。食事を少しの間我慢すればいいのだけど、山での装備不足は恐ろしい。チェヤクサンは次回までの宿題にすることにする。この雄大な景色をもう一度楽しむためにも。
道を戻ると、多くの韓国人登山客とすれ違った。展望台まで戻ってくるとさらに人だかり。ケーブルカー乗り場はというと行列。車内は満員だ。1階の乗車入口にも行列ができていて、外の道は縦列駐車の車が繋がっていた。
(ヨンナムアルプス オルムゴルケーブルカーの記事は↓↓↓)
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